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原発事故が上高地に与える影響についての新聞記事 [景観と景観計画]

今朝の信濃毎日新聞、社会面。

『東電しゅんせつ工事「縮小議論の可能性」』
『原発賠償 大正池に波紋』
『「景観どうなる」上高地やきもき』

以上、記事のタイトルですが。
深刻な事態が続く福島第1原発事故の影響に関連するお話。

つまり上高地を流れる梓川水系は東京電力が管轄しており、
そのうちの霞沢発電所は大正池が調整池として利用されている関係上、
大正池が流入する土砂による規模縮小をとどめるために
1977年からずっとしゅんせつ作業を行っているのですが、
件の事故賠償などのこともあって東電の事業全体の見直しが進む中、
この大正池のしゅんせつにかかる費用も問題視され、
最悪の場合は工事の縮小=土砂堆積の進行=大正池の消滅、
というシナリオまでささやかれ始めている、、、らしいのです。
大正池ビュー1.JPG(秋化粧の大正池)

東電としては「しゅんせつは必要」ということで本社役員も共通理解があるそうですが、
だからといって企業で単独に事を運べないのが原発事故の深刻なところ。
原発の一連の問題に対する東電の責任は重大ですし、
経営の徹底合理化が叫ばれるのはむべからぬこと。

上述の霞沢発電所の出力39000kWの電力は首都圏に向けて送電されてますが、
これがアウトになるとして、東電全体からすればわずか0.1%に満たない出力なので
これを止めたところで…という方向に話が進まないとも限らないのかもしれません。

問題なのは大正池のしゅんせつは他の電力所に比べて事業額が大きい点らしく、
その理由のひとつに、大正池一体が国有地になるため、東電は自己の事業なのに
しゅんせつした土砂は国にお金を払って買い取らなくてはいけないらしく、
ためにしゅんせつにかかる費用は年間一億円にものぼるのだとか。
またこれまで震災以前から論じられてきた事として、これまで土砂の行き場として
建設資材への流用があったのですが、それも年々需要が減ってきており、
処分方法が早晩問題になってくるだろうという話もあがっていました。
土砂流入1.JPG(大正池上流側。土砂で池が埋もれています。)
土砂流入2.JPG(土砂の流入。半端でない量です。)

で、何より私たち上高地を愛する者として気が気でないのは
大正池をはじめとする上高地の景観が今後どうなるのか、ということ。
「大正池がなくなれば上高地のイメージが一変する」なんていう
上高地旅館組合長のコメントが新聞に出ていますが、
上高地の景観で生きている住民にとって景色が変わるというのは
人生が一変すると考えても決して大げさなことではないでしょう。
自分も一時期は上高地の住民でしたから、他人事ではありません。

もともと焼岳噴火という自然の摂理によって出現した大正池。
現在、主に霞沢岳などの沢から土砂が流入するのも自然の成り行き。
故に自然に任せて人工的に手を加えるべきでないという主張もまた一理あるわけで、
さらに大正池に立ち枯れの木々が点在する景観などによって
上高地が“名勝天然記念物”に指定されたのは遠い昔の話で、
今はもうほとんどかつての景観は見る影もないという指摘も頷けてしまうのですが、
根本的に上高地の景観は100%純然たる自然によって立つものではないというのが
私の個人的見解でして、しゅんせつ作業の現状維持をベースにした景観保全の方策を
うまく導き出せないものかと、東電さんの経営の行く末を案じている次第です。
大正池ビュー2.JPG
焼岳1.JPG(かつてに比べて池幅は相当狭くなりました。)

昭和8年頃.jpg
(昭和8年頃の大正池。立ち枯れ木の様子が、まさしく“これぞ大正池!”ですね。)
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コメント 2

自遊人

おはようございます

大正池のみならず梓川も崩壊著しいです。
元々飛弾側に流れ落ちていたと言われる梓川も、今は信州へと流れています。自然による経時変化でその姿が変わっていくものなら、それもまた自然の姿と見るのも考え方。難しい問題です。

東電による環境景観保全活動といえば尾瀬が一番知名度は高く、上高地は案外低いかも知れません。しゅんせつを東電が行っていることもその多額な費用を東電が負担していることも知る人は少ないと思います。
そもそも信州を流れる梓川が東電のものと知る人も少ないでしょう。なんでダムに東電のマークがあるのか、都会は電気を沢山使うからこんな遠くにダムを造ったくらいしか思っていないかも知れません。

ちなみに個人的には環境景観維持のための入山料を取っても良いのではと思っています。お金を取れば関心を持つ人も多くなると思っています。
by 自遊人 (2011-08-23 06:09) 

のぶさん

>自遊人さん
こんにちは、先日はお疲れ様でした。
国立公園に対する入山料の話は基本的に私も肯定派です。
ただ日本の場合は現行法制度と現地の利用実態などから実現には多大な困難を伴うことでしょうし、なにより実施に向けては政府のドラスティックな発想の転換が求められるという、その前提条件一点において絶望的になってしまいますね。(-_-)
上高地一帯は他の国立公園に比べて実施しやすい環境にあると思うのですが、件の尾瀬でも入山料の話が出ては消えの繰り返しですよね。ご指摘どおりあちらも東電の負担が大きいエリアですが、原発問題に絡めて入山料問題が前向きに加速していくことに期待しています。
ちなみに数年前のデータになりますが、国立公園の利用料徴収について市民アンケートを取った結果として、90%前後の人が有料に対して是とする回答をしています。テーマが“施設整備”と“自然保護”なので景観という視点がどこまで認容されるかは微妙ですが、こうした結果が出ているにもかかわらず入山料問題がいっこうに進展しないのは、やはり利害関係が…。
山屋さんの視点から自遊人さんにも、いろいろ山岳景観の有り様についてのコメントを、ブログなんかで評判してみてください。(^^)
by のぶさん (2011-08-23 08:28) 

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